Tue, June 19, 2018

2010年5月号(4月5日発売号)不死身の男


不死身の男 ソトコト5月号(4月5日発売号) 

アフリカに住んでいると、人の生死がとても身近だ。私が関わる村やスラムで、まともな医療も受けられずあっけなく死んでしまう人も多い中、反対に、過酷な状況でなお生き続ける力強い生命力に触れることも多く、驚かされる。

先日、久しぶりにケニア東部のミリティーニ村を訪ねたら、死の淵から生還したババカテンベが全身から生命力をみなぎらせて笑顔で迎えてくれた。これには本当に驚いた。昨年末に最後に会ったときには、もう二度と会えないのではないかと思うくらい衰弱しきっていたのに、骨と皮に痩せ細った彼の体とはうらはらに、今では目がらんらんと輝き、もう大丈夫だという声も張りがあって力強い。驚異的な回復力といえる。

地獄の三丁目を五回くらいうろついてこの世に帰ってきた話を、ガハハハハと大声で笑いながら話してくれた。彼は貧しい村で暮らしているが、ずっと体調がすぐれず、1年8ヶ月前に親類縁者からお金をかき集めて手術を受けた。最初は十二指腸潰瘍と言われ、さらに胃や腸にも潰瘍があると言われ、お粗末な設備の国立病院で決死の手術を受けたわけだが、それからが悪かった。ケニアの国立病院ではお金のない人にはそっけない対応しかしてくれず、大手術のあとでもすぐに家に帰される。数日間入院しただけで帰宅したババカテンベは、その後、どんどん衰弱してほとんど寝たきりになってしまった。極度の貧血で手足の裏は真っ白になり、吐血、下血を繰り返し、腹がパンパンに膨れ上がった。病院に行っても、たいしたことはしてくれずにまた家に帰される。何度も危篤状態に陥り、もうダメかと思いきや再び意識が戻ってくる。ついにまたお金をかき集めレントゲンを撮ったところ、腹一面が真っ白に腫れあがっている。その上、これはいったいなんだと医者も首をかしげる、不審な物体が腹の中にでかでかと横たわっているのだった。そんなある日、肛門から何かが出てきたと寝たきりのババカテンベが騒ぎはじめた。のた打ち回るほどに腹が痛い。真夜中に病院に担ぎこまれ、医者に見せたところ、その肛門から出てきた物体を引っ張り出すという。ババカテンベの体をベッドに押さえつけ、何人かがかりで看護婦が物体を引っ張り出した。激痛に体がのけぞり、病院に響き渡る雄叫びを聞いて家族は失神した。七転八倒の末、肛門から引き出されたものは、なんと、1年8ヶ月前の手術のときに誤って体内に残したままで縫合してしまった、包帯やワイヤーなどの物体だったのだ。それを引き出したとき、あたり一面に腐敗臭が充満したという。

私もそのレントゲン写真を見せてもらったが、確かに、先が輪っかになった長いワイヤーが写っている。まったく信じられない。ところが彼が言うには、自分はまだいいほうで、同じ病棟に入院していた人は、再手術してみたら腹の中からハサミが出てきたという。

ケニアの人たちはよく、神様が決めた時間が来なければ人は死なないという。確かに、ババカテンベはこれからまだ何十年も生きるかもしれないと、妖怪のような彼の笑い声を聞きながらなんだかほっとしたのだった。

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