Tue, June 19, 2018

109号 キベラスラムでCDを作ろう 2


キベラスラムでCDを作ろう 2                DDWN 109号(2007年3月号)

トニーとの出会い

2005年があけてからすぐ、キベラスラムのマゴソスクールで子供たちと共にレコーディングを開始した。まずは機材を調達しなければならない。電気のないマゴソスクールでどうやって電源を確保するかが難関だった。発電機を使うと騒音が出るので、ソーラーパネルを使うことを思いついた。ナイロビの下町を歩き回り、少しでも安く機材を調達するべく時間をかけて吟味した。これはなかなか楽しい買い物だった。電気のないところで活用できる様々な装置が工夫ざれて作られていた。キベラスラムの路上職人たちは、手に入る材料で何でも作ってしまうが、最近ではソーラーパネルまで作られていることを知って驚いた。もっともこの手作りソーラーパネルは、発電力が限られているのでレコーディングには使えなかったが、ラジオを聴く程度なら十分使える。裸電球ひとつなら電気も点くし、時間がかかるけど携帯電話の充電もできる。

私たちは車のバッテリーに電圧変換機をつなぎ、ソーラーパネルでバッテリーを充電しながらレコーディングするという装置を作った。キベラスラムの奥地まで機材一式を運び込んで、いざレコーディング開始。子供たちは、はじめて見るマイクスタンドや録音機材にワクワクして興奮している。

録音をはじめてみると、周囲のあまりの雑音の多さに閉口した。近所の家々から響いてくるガタピシラジオの音、怒鳴り声や叫び声、トウモロコシを粉砕する機械の音。歌が佳境に入ったところで、キベラを突き抜ける線路に貨物列車が通り過ぎ、それを待ってからまた歌を再開したら、次には頭上をセスナ機が通り抜けるという具合だ。挙句の果てには雨が降り出し、トタン屋根を叩きつける雨音でお互いの声も聞こえない。

毎日こんな調子で、レコーディングは遅々として進まない。苦肉の策で、周囲に家が密集していず、雑音が少ない空き地を探そうということになった。しかし人口80万人もの巨大スラムのキベラでは、そんな静かな場所は皆無に等しい。遠足気分で、キベラのはずれにある公共グラウンドまで遠出をすることにした。こちらの苦労はおかまいなく、子供たちは大はしゃぎ。昼食用のパンと飲み物を持って、タイコを叩いて歌いながら、子供軍団は公共グラウンドに向かった。

結局そこも、風が強すぎて録音には適していなかった。風除けの大きなテントを作ろうかとか、いろいろな相談をしながら、子供たちはそのままそこでピクニックとなった。ゴミだらけの野原で歌ったり踊ったりしていたら、その姿を、ちょっと離れたところからじっと見守っている男の子がいることに気がついた。

身じろぎもせず、彼は長い時間、ずっとそれを見続けていた。夕方になり、そろそろ帰ろうというときになって私は彼に話しかけた。どこから来たのかと聞くと、この空き地に住んでいるという。この空き地では、夜になったら帰る家のない子供たちが大勢、草むらの中に寝ている。彼はそんな浮浪児のひとりだった。

彼は蚊の鳴くような声で、私に聞いた。
「これはチョコラー(物乞いの子供たち)の学校?」
「チョコラーだった子もいるし、そうではない子供たちもいるよ」
私はそう答えた。それからさらに小さな声で、彼はこう言った。
「僕も学校に行きたい」

彼はトニーという名で、14歳だと言った。しかし体が小さく、10歳くらいにしか見えなかった。私たちはすぐにその場で彼をマゴソスクールに連れて行き、いつでも来ていいよと言った。
翌朝、トニーは空き地からマゴソスクールにやってきた。だけど遊ぶ子供たちの仲間になかなか入れず、顔が緊張でこわばり、硬直して立ちすくんでいた。私たちは、レコーディングのチームにトニーを招き入れた。彼は始終、一言も言葉を発しなかった。しらばくして、トニーに聞いてみた。
「何か知っている歌がある? あったら、歌ってみて」
すると突然、とても澄んだ大きな声で、トニーが歌った。ざわついていた子供たちは一瞬、シーンと静まり、トニーの歌声を聴いた。そしてすぐに、その声について歌いはじめた。
トニーが歌う。それに応えて、子供たちが歌う。手拍子が鳴りはじめた。
そのスワヒリ語の歌の歌詞は、こんな内容だった。

悪魔が僕にささやきかける
甘い言葉で僕を誘惑するんだ
だけどその誘いには乗らないぞ
強い心でそれを跳ね除けるんだ
僕は悪魔にさよならと言って
そして天国に行くんだ

私は鳥肌が立ち、涙が溢れた。今すぐこれを録音しよう、と言った。
それからトニーは空き地から毎日マゴソスクールに通うようになり、しばらくして、教室に住み込むようになった。今では彼は他の子供たちのリーダー的存在になっている。

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