Tue, August 21, 2018

120号 ジュンバ・ラ・ワトトの子どもたち


ジュンバ・ラ・ワトトの子どもたち              DDWN 120号(2009年1月号)

トニー・ムワンギ (17歳)

2008年11月、ミリティーニ村のジュンバ・ラ・ワトト(子どもの家)とキベラスラムのマゴソスクールの小学8年生24名がKCPE
(小学校卒業時の全国統一試験)を受験した。ケニアの教育システムは、小学校が8年間、その終了時にKCPEを受験して
セカンダリースクールの進学資格を得る。セカンダリースクールは4年間で、日本でいえば中3から高3にあたる。
現在ケニアでは、セカンダリースクールに進学できる子どもたちは全体の4分の1に満たないという。
KCPE受験で良い成績を修めても、学費をまかなえないために進学できない優秀な子どもたちは多い。
孤児や、貧しい村やスラムの子どもたちにとって、セカンダリースクール進学は輝かしい夢である。
ケニアでのKCPE受験戦争は年々白熱していて、成績優秀校として新聞に名前が載ることを目指す私立校は、
朝から晩まで子どもたちに勉強させ、国の方針としては禁止している体罰が秘密裏に行われている学校もある。
そうやって高得点を得るために十分な教材を子どもたちに与え、詰め込み教育を推進する裕福な私立校に比べて、
貧しい地域の公立校やスラムの無認可学校は条件的に不利になり、格差が広がっている。
ケニアはますます、裕福な子どもたちがより良いチャンスを得られ、貧しい子どもたちがチャンスに恵まれない悪循環の傾向が顕著になってきた。

そんな中で、ジュンバ・ラ・ワトトとマゴソスクールの子どもたちも、他のケニアの一般小学生たちと同じ土俵で受験に立ち向かうときがやってきた。
親を失い貧困のどん底で生きてきた子どもたち、やっかい者として虐待され続けた子どもたち、アル中の父親や病気の母親を
抱える子どもたちなど、言葉に尽くせぬ苦労を重ねてきた子どもたちが、困難な状況を乗り越えながら勉強を続け、受験の日を迎えたのだ。

2008年の受験生の中には、路上生活からやってきたトニーがいた。
トニーには父親はなく、母親の再婚先でひどい虐待を受けた末に捨てられ、路上生活の子どもになった。
私が路上でトニーに出会い、マゴソスクールの一員になってからしばらくして、彼の母親を探しに、かすかな記憶を頼りに
田舎の村までたどる旅を共にした。やっと見つけた彼の出身村はあまりにも貧しく、借金を抱えた母親は蒸発して行方不明に
なっていた。その村は、彼らの民族が先祖代々暮らしてきた出身地ではなく、植民地時代に土地を奪われスラム生活者となった貧困者たちが
ケニア独立以降に土地を与えられて移住した荒地であった。伝統的なコミュニティも崩壊して、荒地にばらばらに入植してきた赤の他人の
貧困者たちが寄せ集めで暮らしている村には、昔ながらの相互扶助のアフリカ的精神はなく、極度の貧しさにぎすぎすとした殺伐感が漂っていた。
ただ一目母親に会いたいと、それだけを願い続けていたトニーだったが、そんな彼に向けられる村人たちの視線は冷たかった。
あの女はひどいやつだ、借金を踏み倒して逃げた。今ごろはどこかで野たれ死んでいるだろう。お前は何をしに帰ってきたのか。
チョコラ(物乞いの子ども)のくせに。そんな罵倒を浴びせられた帰り道、トニーはナイロビまでの6時間の道中、一言も口をきかなかった。

それから彼は変わった。マゴソスクールの子どもたちのリーダーになり、歌を作り、歌った。ジュンバ・ラ・ワトトに移り住んでからあとは、
年長者として家を切り盛りし、新しくやってくる子どもたちの世話をした。彼の口から、自分の負ってきた人生に対しての愚痴を聞いたことは一度もない。
その代わり、蒸発した貧しい母親のために彼はいつも祈っていた。いつか母親を見つけ出し、必ず親孝行するのだと言っていた。
がんばって勉強して進学し、将来は困っている人を助けられる人間になりたいと言うようになった。

トニーは受験し、その結果を待っているところだ。受験前夜、私は受験生の子どもたちにこう話した。
みんながそれぞれどれほどつらい経験をしてきたか、私たちはよく知っている。でもそれを乗り越え、ここまで来たことをとても誇りに思う。
ここから先は、自分で自分の人生を切り開いていくのだ。子どものときに与えられたどうしようもない不幸な状況を、
これから先は自分の努力で変えていくことができる。そのがんばりを私たちは応援して、行きたいところまで支えていくから、
安心して思いきり力を発揮しなさい。

トニーは、大きくうなずいて、意気揚々と試験会場に向かっていった。子どもから大人への境界線を、力強い足取りで堂々と踏み出した瞬間だった。

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