Wed, October 17, 2018

バオバブは見ていた ソトコト2月号(2011年1月5日発売)


バオバブは見ていた

現在、ケニア各地が建設ラッシュで、プチバブルのような様相だ。ナイロビから北部に向かうハイウェイが整備され、完成すれば東アフリカ最大の八車線を有するハイウェイになるという。工業地帯は拡大し、都市周辺に次々と新興住宅街が建設され、夢のマイホームを持つためのローンの広告があちこちに見られる。ケニア政府が掲げるスローガン「ビジョン2030」を目指して、ケニアは激動の時代に突入しているようだ。

確かに活気に満ちている。ケニア国民には夢があるのだ。加速度を増していくエネルギーの渦の中にいると、日本の高度経済成長期というのもこんな熱気に満ちた時代だったのかもしれないとふっと思う。

怒涛のような勢いの中で、それに乗り切れず置いてきぼりになっていそうな人々のことが私は気になって仕方がない。小さな露店は次々と撤去され、自然と共に昔ながらの暮らしを送る村々や、動物たちの楽園だったサバンナも、町や工場に変わっていく。それでも、貧困を脱して発展したいというケニア国民の大きな夢を、どうして押しとどめることができるだろうか。彼らの夢は輝いているのだ。激動の中で、せめて私は、今のこの美しいケニアの自然や村の人々の暮らしぶりを、自分の脳裏に鮮明に焼き付けておきたいと願いながら、ケニアを歩いている。

私の大好きな村には、大きなバオバブの木がにょきにょきと生えていて、幾つものなだらかな丘が地平線まで延々と、波打って連なっている。その向こうは、海だ。子どもたちはこの丘を駆け足で登ったり降りたりしながら学校へ通い、甘い木の実をかじったり、畑の中でオオトカゲを追いかけたり、楽しい道草ネタには事欠かない。バオバブの木々は、樹齢何百年ものおじいさんバオバブで、こちらにひとつ、あちらにもひとつ、という具合に、ほどよい間隔をあけてそびえている。

散歩をしていると、さわさわと気持ちのいい風が吹いてくる。ふっと立ち止まって耳を澄ます。海の匂いを乗せた風が、連なる丘に沿って大地を駆け抜けていく。そんなとき、こっちのバオバブ、あっちのバオバブ、そのまたむこうのバオバブが、会話をはじめる。ざわざわ、ざわざわ。低い声で、笑い声まで聞こえてきそうだ。
バオバブたちは何百年もの間、ここでこうして人間界を見下ろして、すべてを見てきたのだろう。人々の生活や生き死にや悲しみや喜びを、ずっと見つめてきたのだなぁと思う。
大好きなバオバブ。抱きつくと、なんとも言えず安心する。

そんなバオバブたちが、最近、あちこちの丘で倒れているのを見かける。力尽きて、逝ってしまったように見える。
この美しい丘も、今ではその周りにぐるりと杭が打たれている。モンバサの港の拡張に伴い、この周辺一帯はコンテナヤードになるのだという。

悲しむことは、もうやめよう。落ち着いてしっかりと、見つめていきたい。時代はどこへ向かっていくのか。バオバブは何百年も私たちを見つめ、語りかけ続けてくれた。何を守り、何を求めるのか。今まさに、人間の良心が問われる時代だ。

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