Tue, August 21, 2018

キリマンジャロとマサイ (2月5日発売)


キリマンジャロとマサイ

キリマンジャロのふもとに、アンボセリという美しい国立公園がある。私はここが格別に好きで、一年に何回も訪れる。何しろ、キリマンジャロがいい。堂々と大きく、凛として、たくましく、優しく、柔らかで、ほれぼれするのだ。一日中、朝も昼も夕も、いつの時間帯でも見飽きない。こんないい山、そうそうあるものではない。裾野を大きく広げているキリマンジャロは、アンボセリの目の前に悠々とそびえたって、アンボセリ国立公園を抱きしめているように見える。その懐に抱かれながら、サバンナの風に吹かれて深呼吸。魂の緊張が抜けて、ゆるゆるになれる。

このキリマンジャロのふもとに、観光客の訪問を受け入れているマサイの集落がある。彼らの集落は人口150人ほどで、通常のマサイ集落よりだいぶサイズが大きい。アンボセリの有名ロッジのすぐそばで長年暮している定住集落だ。マサイ族の文化に触れたい観光客をここで受け入れ、ジャンプ競争の踊りや儀式の歌、伝統的な火おこしを披露したり、牛糞で作った家を見せてくれたりする。マサイの文化に対しての質問にも詳しく答えてくれるので、木陰での語らいはとても楽しい。

集落への入場料を徴収するので、これはマサイ観光村なのだと眉をひそめる観光客もいるが、それは誤解だ。この定住集落で観光客を受け入れることは、厳しい時代を生き抜くための彼らなりの作戦で、これよりさらに奥地にあるいくつもの伝統集落と彼らは収入を分かち合っているという。観光客に開いている集落は3つ。そこで得られる収益は、様々な形で奥地の集落まで分配されている。

もちろんこの集落でも、観光客訪問は補助的な収入源であり、基本は本来の伝統活動、すなわち、牛やヤギや羊の牧畜で生活していくことが、彼らの一番の望みだ。しかし、2009年にケニア全土を襲った大干ばつで、彼らの牛は700頭のうち670頭が飢えで死んでしまった。現在残っているのは30頭だけ。今年は少しづつ、そのダメージを回復させていく努力をしている。集落訪問の入場料や、ママたちが作ったビーズ細工を売って得られる収益で子牛を買い、群れを回復させていこうとしている。

家畜がいなければ食べていくことができない。マサイの主食は牛乳、血、肉だが、厳しい季節にはトウモロコシの粉や米などの代用食を買わなければならない。集落のわきに、彼らは小さな学校を作っていて、象やライオンが危険で遠くの学校に通えない小さな子どもたちがここで学んでいる。この学校で先生を雇ったり、教科書を買ったりするためにも収入は活用されている。

オブザベーションヒルという小高い丘に登ると、アンボセリ国立公園を360度見渡すことができ、目の前にキリマンジャロの雄姿を眺めることができる。何十年もかけて流れてきた雪解け水が作る湿地帯と湖は、象やカバや野鳥たちの楽園で、流線型を描きながらゆったりと飛んできたペリカンの群れがパタパタパタと着水していく。

突然、雲の切れ目からキリマンジャロの頂が顔を出した。夕暮れの光に照らされて、頂上の雪と氷河が輝く。マサイの人々は、あの頂上に神様がいるという。この楽園でも、野生動物たちやマサイの人々は、生きる場をどんどん狭められていっている。

神様どうか彼らをお守りくださいと、頂上に祈る。人間にはその答えは聞こえないが、刻一刻と色を変えていく美しい山の姿そのものが、メッセージを投げかけているとそのとき思った。

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