Sun, May 28, 2017

センゲーニャの魂 見えない世界の扉を開く


先日モンバサに滞在中、偶然あるマタンガに誘われ、友人や家族を引き連れて行ってきた。
マタンガとは慰霊祭の事で、亡くなった方の死後1年~3年後に行われる。
親族縁者やその他大勢が集まって、皆で牛やヤギや米などを持ち寄り、御馳走が振る舞われ、男たちはヤシ酒を酌み交わし、故人の好きだった伝統舞踊の楽団を呼んで演奏してもらい、四日四晩の祭りが繰り広げられる。
このときのマタンガの故人はセンゲーニャの踊り手だったので、僕の師匠であるムゼーマテラのチームが呼ばれた。

場所はモンバサの内陸部、マリアカーニの奥のとある村。乾期の最中でからっからに乾ききった丘が幾十にも連なる大地を、バイクに乗り合いたどり着くと、既にセンゲーニャのメンバーたちがくつろいでいるのが見える。
日曜日のこの日はこのマタンガの最終日。ダンサーのアリーがヤシ酒を飲みながら自慢げに右足をたくし上げながら言う。
『木曜の夜からこのジュガは一度も外していない。それが俺のコントラクトなんだ。』
ジュガとは男のダンサーが右足のすねに縛り付ける、餃子のような形をした金属製の鈴。足を踏むと『ジャキッ!』という鋭い音が鳴る。
アリーの右足には、ざっと40個以上はジュガが縛り付けてある。

センゲーニャはおよそ100年ほど前に、ドゥルマ民族、ディゴ民族、ラバイ民族の間に誕生した。
複数の伝統が掛け合わされて生まれたセンゲーニャは、様々なしきたりや垣根を取払い、民族や世代を超えて広まり、芸能という範囲を大きく超えて各地のリーダーたちが連携し合い、偉大なシャーマンを頂点に一つの大きな社会形態を築いて行った。
男たちは足にジュガ、肩には大きな羽を背負い、女たちは踊ると色鮮やかなビーズが揺れるように肩に施された赤や青の衣装をまとい、肩を振って喜びのダンスを踊る。
山を超えて行くような一体感がセンゲーニャの醍醐味だ。

焼いたヤギ肉をかじっていたら、太鼓の叩き手たちが準備を始めた。そろそろ始まるようだ。
打楽器は4人で叩かれる。チャプオという両面太鼓が2人と、4つの中低音の太鼓を自由自在に操るソゴラが1人。それにウパツという金属板を叩くのが1人。
さらにズマリというチャルメラのような音のリード楽器。祭りのクライマックスで歌をリードする。

チャプオは小型の両面太鼓で、2人一組でリズムの土台を作る重要なパート。1stチャプオが構成全体をリードし、2ndチャプオがカウンターのリズムを加え、複雑な高揚感を作り出す。そこにソゴラの4つの中低音の太鼓が加わると、まるで龍が踊るかのようにリズムがうねりだす。
知らないおじさんが満面の笑顔で1stチャプオを叩き出し、僕はそれに2ndチャプオで応じた。いよいよ始まった。


まずはダンサーたちが列になって歩き出す。一列になった男たちの足踏みとともにジュガが鳴る。チャプオ、ウパツも列に続く。
広場の角にある、故人の男家族たちが集っている所で数分演奏する。男たちがヤシ酒を酌み交わしながら、故人を思い出すための場所だ。
そのまま列になって歩き続け、次は家の中に入り、そこに集まっている故人の女家族たちの前でしばらく演奏する。
途切れる事無く演奏を続けながら、広場の中央に集まり、いよいよソゴラであるマテラが加わった。

リズムはどんどん高揚感を増して行く。まるでみんなで神の山を登っているみたいだ。
いくつもの段階を超えて行く。時間の流れ方さえも変わったように感じるのは気のせいかな?
マテラの太鼓の音が広場全体を大きく包み込んでいる。太鼓を叩いているときのマテラはホントに楽しそうだ。
1stチャプオのおじさんが、たまらなくいい笑顔をしている。2ndチャプオの僕とこのおじさんのコンビもなかなかいいじゃないか。

おじさんがリズムを変えた。クライマックスのムセレゴだ。僕もすかさずそれに応える。ウパツとジュガの音がいっそう激しくなる。マテラの鋭い眼光が光る。ズマリの音が高く響く。
興奮の絶頂であたりを見渡した。

ダンサーたちが輝いている!

みんななんて楽しそうなんだ!

広場全体が喜びで包まれている!

空を観上げた。なにか、偉大な存在が、僕たちを見下ろしているように感じる。

音楽の力が、確実に見えない世界に届いている。

別の世界の扉が開かれ、繋がっている。

あーなんてすばらしいんだ・・・・

それからしばらくして、音楽が終わった。

皆笑顔が輝いていて、言葉に言い表せない幸せに包まれている。

こうやってセンゲーニャの魂は、人々の手によって受け継がれて行くんだ。

西の空に、金色の夕日が輝いていた。

 

大西 匡哉

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